APS工法とは、開発から現在[後編]
APS工法、その特徴と特性を開発から現在までを綴る
ミリ単位の収差を突き詰めて
「(最大)67mの1本の梁をゼロタッチ(隙間ゼロ)で作ることができた。その経験から1mmの誤差も許さない、ガタつきのない仕口はどうやれば作れるのか、発想を転換したんです」
そしてもうひとつ、加藤は外側に金物が露出することにひどく落胆していました。
「木材と木材がピタッと組みあがっていく、日本の在来工法の良さを残したかった。そうなると金物は邪魔でしょ。なかでも羽子板ボルトが嫌いでね(笑) それにボルトを差し込む穴を見ると、ボルト径は12mmもないのに、穴の径は18mmもある。施工は簡単かもしれませんが、これではネジに少しでもガタがきたら緩くなりますし、住宅の耐震性や耐久性にも影響が出ます。改善すべきと思っていました」
羽子板ボルトをなくすにはどうしたらいいのか。そこで思い出したのがAPS工法の“タネ”、ピンを使うやり方でした。
木造住宅のために作られた、木のための工法
そして誕生したのが在来工法のアリ・カマ・ホゾの美しい木組みの内部に、アップルピンを内蔵させるという、精度と強度、そして美観を兼ね備えたまったく新しい構造をもつ『APS工法』でした。
「断面欠損率は国の基準である20%以下になるよう、設計しています。ベテランの大工さんはホゾが小さいと思われるかもしれませんが、その部分についてはアップルピンでカバーしています」
そして強度を支えるアップルピンにも秘密があります。それが“逆ネジ”です。
写真はアップルピンA1、アップルピンA2です。ここに逆ネジを切ったことで、ネジなしに比べて、引き抜き強度を向上させています。
「逆ネジが可能なのは、“木”に柔軟性があるから。締めたあとは木の復元力によって、内部に逆向きのネジ山ができるので、より抜けにくくなります」
施工時は逆ネジ部分に至ると締め付けが重くなるといいます。
大工さんに「締め終わりが近いサイン」を出す役割も果たすと同時に、しっかり締めたという安心感もあり、作業の確実性もアップしています。
「木造住宅にはビル建設に使われていた技術が転用されていることが多く、木の特徴を生かしているとはいえません。また外側に金物がついていると木痩せによって位置のズレが起こりますが、APS工法ではアップルピンが木材の内部にあるので、接合位置が変わらず、緩みの心配がないんです」
さらにAPS工法ではボルトやナットを使用しないため、ガタが出にくいという特徴があります。
そしてAPS工法最大の特徴は、経年変化による木痩せや地震などでの耐力低下の抑止に効果があることです。地震や木痩せによりボルトが緩むと10%以上の耐力低下が起きるという実験結果があります。また変化が少ないとされる集成材であっても、数年間で1~2mmの木痩せが生じており、材料に木を使用している以上、木痩せは避けられません。
こうした緩みが生じていないことの証左は現場を経験した多くの大工さんからクロス(壁紙)の切れやよじれが少無いと言われることです。これは視覚的な要素となりますが、快適な室内空間の維持にも寄与しています。
金物を内蔵しているから、火と水に強い
APS工法は、材木同士がぴったりと接合されているため、高い気密性を備えています。このため在来工法や金物工法に比べ、ヒートブリッジの影響を受けにくい構造となっています。
ヒートブリッジについても知っていただきたい。鉄は熱を伝えるスピードが速く“熱橋”とも言われています。つまり温度変化に敏感な金物が建物内で露わになっているところでは、強度の低下や結露も発生しやすいことになりますし、金物の露出が少ないことは、火事などの際も熱の影響を受けにくいという大きな利点があります。
「木が燃えると、表面の焼けた部分(炭化層)が内部への酸素の供給をストップするので、芯まで燃えないという特徴があります。この炭化層が断熱層として機能するので、延焼を送らせることができるのです」
出火があった際には露出している金物は直接火にさらされ熱を持ちます。その場合、金物が先に溶けてしまい、建物が強度を失うことも起こりえますが、APS工法の場合、金物類は木の中に内蔵されているので、炭化層によって金物が守られるのです。
SDGsにも貢献。未来の木造住宅を守る
「住宅業界は分業化が進み、以前のように一人の大工さんが基礎から竣工まで一貫して行うことはほぼありません。つまり間違いが起こっても発見しづらい状況なのです。ですからAPS工法はシンプルに徹し、誰もが間違うことなく施工できるようにしています。そして組み立てには電動工具を使用しないことで現場での音の問題やエネルギー消費、ひいてはカーボンニュートラルにも寄与すると考えます。」
ただ工法がシンプルだからといって使用できる木材の種類も“シンプル”というわけではありません。金物工法の多くは集成材が多用されています。しかしAPS工法はこれまで金物工法では対応が難しかった国産無垢材を使うことができるようになっています。そのため日本の伝統的な木造建築の特徴である美しい木目の現しも得意ワザ。無垢材の用途を広げ、いま地球にある資源を無駄なく使うことができる工法なのです。
また住宅は30年も経過すれば、解体されることも起こりえます。そんなときも、この“シンプルさ”が効果を発揮します。近い将来、建築材の再利用が当たり前になったとき、APS工法の分解しやすさ、再利用しやすさは住宅の新しい価値になることでしょう。
「在来工法は木の特性を生かし、日本で発展してきた日本の伝統的な工法です。ただ近年は災害も増え、暮らし方も変わってきました。そんななかで在来工法をさらに進化させて、次世代に継承していく必要があると思いました。そのためには、たとえ説明書を読まなくても誰もが建てられるようにしておかねばなりません。それこそがAPS工法が目指すところです」
日本人がこの先も日本の木造住宅に暮らす――その礎になるのがAPS工法なのです。
加藤俊行(カトウ トシユキ)
アップルピンシステムズ代表
建築に関わる数多くの特許を持つエンジニア
株式会社アップルピンシステムズ
〒102-0072 東京都千代田区飯田橋4-1-1
https://apscm.co.jp/
https://www.t-kato.co.jp/
APS工法
江戸時代より続く日本古来の在来工法にさらなる進化を与えた全く新しい木造建築工法
https://www.t-kato.co.jp/products/aps.html
タイトニック
世界4カ国で認められた特許技術「緩まない座金」
https://www.t-kato.co.jp/products/tightnic.html