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設計から見るAPS工法について[後編]

建築家山嵜雅雄さん、木質系構造家石田絢生さんに聞く

構造にも自由をくれるAPS

―いま木造住宅には、金物を使ったさまざまな構法が開発され、それぞれに特徴を持っています。APSが優れている点は?

山嵜 ピン類など柱や梁に付けられる金物が外に出ていないという点ですね。多くが外からの補強というスタイルを取っています。もちろん内蔵させているメーカーもありますが、それでも木材に切込みなどがあって、それは外から見ても明らかです。その点APSではいわゆる昔ながらの在来軸組み工法のような、木と木がピタッと接している木造としての美しさを味わえる。先にも述べましたが、無垢材を使って柱や梁をデザイン的に見せたい場合はとくに有効です。

あと金物が木の中に収まっているのは美観のみならず災害時にも効果があります。木の中に金物があるだけで、耐火性能は向上します。金物が外に出ていると、ひとたび火事になると金物が熱を持ってそこから発火することもあるし、一緒に焼け落ちれば構造ごと崩壊します。ですがAPSの場合は、外側(木材)は炭化しますが、金属は守られますから構造は維持できるんです。

また建方ですが、木には隙間があるのでまっすぐ立たたない性質がありますが、APSだと不具合の調整が簡単にできるんです。基本構造にボルトやナットを使わないのでガタが出にくいこともありますが、柱と梁の引き寄せや締め付けも簡単なので、建方の際の揺れが格段に少ない。プレカットの精度が高いということもありますが、揺れの少なさは躯体の上を歩く鳶さんたちも口を揃えてますね。つまり建てるときも安心・安全ということです。

許容量の基準値を越える

―構造のお立場では?

石田 もともと木造はたわむし、痩せるし、動くものです。そのため建築基準法にはこの変形に対しての許容量の基準があります。たとえば3mmまで許容するとして、設計側はさらに詰めて1mmまで制度を高めたいと考えたとします。そんなとき、金物工法(構法)の多くがパテントを取得している関係で、こちらで構造計算ができないことが多いんです。ですがAPSは構造計算をこちらに任せてもらえるのがありがたいですね。

それと私は住宅を担当することが多いのですが、若い世代が多く、APSをお勧めしたくても予算が潤沢なことばかりではありません。それでもわれわれとしても堅牢な住宅をつくりたいし、提案したいんです。そんなときに「メインの梁と柱だけAPSにする」といった部分的な使い方が相談できるのはありがたいですね。

一般的な金物工法ですと、1棟すべてをその工法で設計せざるを得ず、そうすると「これしかできない」という制約付きで設計が進んでしまいがちです。ですが部分的な使用が許されることで、アイデア次第では「これもできる」ということになります。こうした点でも可能性を感じさせてくれる工法だと思っています。

山嵜 コスト面でのメリットで言うなら、資材は変に金具が飛び出しておらず、すっきりしているのでトラックへの積み込み効率がいいんです。プレカット工場からの送料も安く抑えられますし、現場での取り回しもラク。住宅街の狭い道路に何台もトラックを止める必要もないし、作業効率の面でもいいですね。

今後APS工法でやりたいこと

―APS工法の良いところ、また挑戦したいことはありますか。

山嵜 昔の大工さんは、強度面を感覚的に捉えることができましたが、それを数値化できるのがAPSのいいところであり、僕の安心の要になっています。大空間やスキップフロア、またユニークな意匠も具体化できるのがAPSであり、制約が多い難しい建物の場合でもウッドフレームで構造計算しますから間違いないですよ(笑)

石田 意匠面での利点もありますが、構造主体でデザインを提案する場合にも向いていると思います。もちろん予算もありますが、個人的にはAPSには世界最大規模の木造体育館「所沢市民体育館」(2004年竣工)などの経験で得られたノウハウもありますから、木造の大型建造物に対応する技術力があると考えています。ですから、個人的な願望ですが、木造5階建マンションといった建物に挑戦できたら嬉しいし、楽しいだろうなと思います。構造計算をしているときはもちろん、これまでとは違った世界が体験できそうです。

山嵜 素材も樹脂、金物を含めて、建築業界には新素材、新技術が次々と出てきているので、大型=RC造という公式も今後変わってくるでしょう。私自身としては、柱のサイズに合わせてAPSのピン数を変えれば、大型建造物の具体化も見えてくると考えています。


建築家
山嵜雅雄(ヤマザキ マサオ)
一級建築士、一級施工管理技士、インテリアプランナー、1960年東京生まれ。1993年に山嵜雅雄建築研究室を設立、2016年、㈱山嵜雅雄建築設計に改名。戸建住宅、集合住宅、別荘を主に設計するほか、事務所ビルや店舗設計、ホテル等を手掛ける。コーポラティブハウスやバリアフリー住宅、省エネ住宅にも取り組んでいる。
〒157-0066 東京都世田谷区成城2-15-20 consociaD 
http://www.yamazaki-archi.co.jp/

木造系構造家
石田絢生(イシダ アヤキ)
二級建築士。1990年東京生まれ。高校生のときに計算に興味を持ち、㈱山嵜雅雄建築設計にて設計アシスタントを始め、大学卒業と同時に同設計事務所に入社。以来、木造住宅の構造計算を専門に置き、経験を積む。2018年より現職。

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