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APS工法とは、開発から現在[前編]

APS工法、その特徴と特性を開発から現在までを綴る

木は吸湿性・吸水性に優れ、季節によって温度や湿度の変化の大きい日本に気候にもっとも適した素材です。また断熱性能に優れているほか、デザインの自由度が高く、建築費用を抑えられるなど、多くのメリットが挙げられます。その一方で天然の素材ゆえに施工によって品質や強度にばらつきがあるといったデメリットも。そこで木造の良さと品質・強度を兼ね備えた住宅にすべく、木造軸組み工法(以下、在来工法)を進化させたのが「APS(アップルピンシステムズ)工法」です。

※APS工法は複数の木造接合に関する特許を持った独自工法です。

堅牢さを維持しながら、木組みの美しさを継承

日本は大きな地震に遭うたびに建築基準が見直されてきました。1981年に新耐震基準が施工、また2000年には木造建築の耐震性の強化が図られたことで、柱・梁・筋交いの接合部は金具を使用することにより固定し、地震時に抜けることがないように定められました。堅牢さや安全性は確保されましたが、その一方で、金物を用いることにより、これまで伝承されてきた木組みの美しさが損なわれることも起こります。現し(柱や梁など構造物が見える仕上げ方法)といった伝統的な意匠を実現することが難しくなっているのです。

【強度を確保しながら、伝統の木組みの美しさを併せ持つ】
この命題をクリアし、木造住宅のために誕生したのが「APS工法」です。考案したのはアップルピンシステムズ代表取締役、加藤俊行です。「APS工法の考え方の“タネ”のようなものを得たのは、所沢市民体育館の建設に携わっていたころです」

事の起こり

所沢市民体育館は2001年着工、2004年に完成した世界最大規模の木造体育館です。最大スパン(建物を支える支柱と支柱の距離)は67mと非常に大きく、またこの梁材には地元埼玉県の杉の無垢材の使用が決まっていました。メインアリーナの床面積は80×42mもあるため、使用する杉の無垢材は1万本ともいれわる規模を誇ります。そのため、施工に関する課題として木材同士を非常に高い精度で結合できる方法が必要となり、設計・施工の両者で模索されていました。

世界最大規模の木製トラスを備えた所沢体育館

「そんなとき、株式会社ティ・カトウの『タイトニック』を使いたいと、お声がかかりました」
タイトニックとは木材住宅用のパーツで、木痩せに追従して座金を締め付けることができるというもの。木は経年により痩せることが起こり、ボルト類のガタつきが発生しますが、タイトニックを使うことで、木痩せに起因するガタつきを防止する役割を果たします。

タイトニック

※タイトニックは特殊構造により緩まない座金として国際特許技術を持った商品です。
※株式会社ティ・カトウは株式会社アップルピンシステムズのグループ会社です。

クロスする発想のタネ

「所沢の体育館の場合、最大スパンは67mでした。このためには何十本もの木材を組み合わせる必要があります。そのうえで接合部分の精度をどうクリアするのかは最重要課題でした。接合部分に1mmのズレがあると、組み合わせていくうちに、その狂いはどんどん大きくなってしまうからです。では小さなガタつきをどう抑止していくのか、皆で頭を突き合わせて考えているなかで、マジックリング(図参照)のように機能するパーツとして、現状よりも太いドリフトピンで打って(接合)はどうか、というアイデアが提示されたんです」

マジックリングの機能解説

ただしドリフトピンは並列で打たねばならず、またピンの軸径の6本分の間隔を空けるという規則があった。それでは接合部が長くなってしまうことになります。そこで加藤は「クロスにする」という発想で対応し、これがAPS工法の発想の“タネ”になりました。

並列のピン
並列ピン分解図
クロスする様子

「クロスするのであれば、2本あるピンのうち、1本をネジ構造にし、もう一本のピンをナットとしてみたらいいんじゃないかと思いついたんです。ピンよりネジならば引き寄せる力が生まれますし、引き付けることで木材同士がピタリと接する。ネジを発想してから、少しずつ(APSの)システムが固まりはじめました」

在来工法の「仕口」の存在が強度の要に

加藤には木造住宅で気になっていたことがありました。それが「仕口」です。

仕口とは、柱と梁、筋交いと柱、梁と桁といったような方向の異なる部材を組み合わせるための合わせ目の構造のことを指します。アリ・カマ・ホゾといった組み方によってさまざまな形状があり、それらをぴったりと接合させることで、躯体にかかった力を分散することができます。

日本の住宅は、昭和25年(1950)に、「筋交いはボルト・かすがい・くぎ・その他の金物で緊結しなければならない」と規定されてから、平金物や筋交プレートといった金属部品が一般的になっていきました。そして平成12年(2000)、耐震性を高めるため、仕口部分に耐震金物が取り付けることが義務付けられます。

金物があらわになっている様子

「私が不思議だったのは仕口についての法律上の説明が曖昧だったことです。その結果、仕口の仕様が規定されず、サイズもプレカット工場によってバラバラになりましたし、また木痩せも考慮せずにカットしているケースも見受けられました。そうした木材を見るたびに『もっと精度を高めた仕口にすれば、ガタつきによる躯体への不要な負荷が軽減できる』と考えていました」

そんなとき、所沢の体育館での作業も思い出されたと振り返ります。


加藤俊行(カトウ トシユキ)
アップルピンシステムズ代表
建築に関わる数多くの特許を持つエンジニア
株式会社アップルピンシステムズ
〒102-0072 東京都千代田区飯田橋4-1-1
https://apscm.co.jp/
https://www.t-kato.co.jp/

APS工法
江戸時代より続く日本古来の在来工法にさらなる進化を与えた全く新しい木造建築工法
https://www.t-kato.co.jp/products/aps.html

タイトニック
世界4カ国で認められた特許技術「緩まない座金」
https://www.t-kato.co.jp/products/tightnic.html

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