設計から見るAPS工法について[前編]
建築家山嵜雅雄さん、木質系構造家石田絢生さんに聞く
在来工法の進化系、
アップルピンシステムズ(APS)との出合い
―山嵜雅雄先生は複雑な構造計算を必要とする多くの建築案件を手掛けています。なかでもアップルピンシステムズ(APS工法)を採用した物件は10棟以上の実績をお持ちですが、APSを知ったきっかけを教えてください。
山嵜雅雄 2004、5年くらいでしたか、正確な時期は定かではないのですが、私の設計する木造物件の構造計算を担当いただいていた先生から教えてもらったのがAPSでした。
―先生の自由な設計に対して、安全を担保するのに必要な、在来工法で仕口の構造計算が可能なものがAPSであったと。
山嵜 私は事務所を設立した1993年から、どんなに小さい建物でも手掛ける物件すべてで許容応力度計算を行うことをわが社のルールにしています。その理由は、クライアントからお金をいただく限り、建物の安全性を担保することは設計における義務だと考えていて、そのためには許容応力度計算は不可欠です。
在来構造における仕口の強度は明確ではありません。設計する場合、実験して強度がわかるものを使っている方が安心ですし、作る建築物に“安全性の裏付け”が得られます。そこからAPSを使うようになったのですが、実際に物件で使ったのが18年くらい前だったと思います。
無垢材がポイント
山嵜 APSの場合、無垢材でも使用することができる。これは“意匠面”で非常にありがたく、魅力です。その理由は、金物工法の場合は集成材が基本材料になり、もし無垢材を使用したい場合は躯体としてではなく、飾りとして後付けすることになる。しかしAPSでは無垢材も躯体として考えることができるため、意匠面、設計面で不要な部材を追加する必要がない。すべてでスッキリさせられます。これも安全性を考えると大切なことです。
―現在、山嵜先生が手掛ける木造物件の構造計算は『ウッドフレーム』が担当していますが、御関係は?
石田絢生 山嵜雅雄建築設計内で構造計算を内製化できるようにと構造部門をつくった、それが『ウッドフレーム』の前身です。そこから徐々に他社からの依頼も受けるようになり、会社として独立しました。
構造側から見ても、APSには利点が多いと感じています。APSはキャッチフレーズに「在来工法の進化系」という言葉を使っていますが、とても端的に魅力を表現していると思います。ただ、在来工法を主としている工務店さんにとって新たな金物工法を採用するのはハードルが高いですし、また金物工法を利用していたとしても、別な工法を採用するのは二の足を踏んでしまう。それが残念ですね。
山嵜 僕らがいくらAPSの良さを説明してもわかりづらいこともあると思うんです。ですから構造屋さんがAPSを知りたいときは、説明に伺いますのでお声かけいただきたいですね。僕らも実際に動いて理解したことも多いですし、そうした経験に基づいた解説やアドバイスができると思いますし、また私も勉強になりますのでぜひ一緒にやりましょう。日本の場合、意匠が先行する建築物が多いのですが、構造がデザインを提案するという場合にも向いていると思います。思いがけない建物ができるんじゃないかな。
石田 厳しい、難しいお仕事、承ります(笑)
建築家
山嵜雅雄(ヤマザキ マサオ)
一級建築士、一級施工管理技士、インテリアプランナー、1960年東京生まれ。1993年に山嵜雅雄建築研究室を設立、2016年、㈱山嵜雅雄建築設計に改名。戸建住宅、集合住宅、別荘を主に設計するほか、事務所ビルや店舗設計、ホテル等を手掛ける。コーポラティブハウスやバリアフリー住宅、省エネ住宅にも取り組んでいる。
〒157-0066 東京都世田谷区成城2-15-20 consociaD
http://www.yamazaki-archi.co.jp/
木造系構造家
石田絢生(イシダ アヤキ)
二級建築士。1990年東京生まれ。高校生のときに計算に興味を持ち、㈱山嵜雅雄建築設計にて設計アシスタントを始め、大学卒業と同時に同設計事務所に入社。以来、木造住宅の構造計算を専門に置き、経験を積む。2018年より現職。